大判例

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東京高等裁判所 昭和24年(ネ)848号 判決

控訴代理人は、原判決を取消す、控訴人が被控訴人に対し東京都北区田端字西台通六百十二番地宅地百七十四坪につき、賃料一箇月金二十七円八十四銭、毎月二十八日拂、堅固ならざる建物所有の目的、期間昭和二十一年九月十五日から十年間なる賃借権を有することを確認する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とすとの判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の供述は、控訴代理人において、昭和二十年三月十七日被控訴人に支拂つた賃料は、昭和十七年十月一ケ月分の賃料である。控訴人が、昭和二十三年六月十一日に本件賃料金千五百円五十七銭を供託したのは、その供託以前に該金額を被控訴人方に持参して現実に履行の提供をしたのに、被控訴人はこれが受領を拒絶したことによるものである。本件賃貸借の解除に関する特約は、被控訴人が主張するように、賃料二ケ月分の延滞により賃貸借契約を解除し得る趣旨のものであることは認める。しかし、罹災都市借地借家臨時処理法第十二條によれば、土地所有者は、同條に定められた催告の手続によらなければ借地権を消滅させることができないのであるから、被控訴人は右の特約によつては本件賃借権を消滅させることはできないものであると述べ、被控訴代理人において、控訴人主張のように、昭和二十年三月十七日に昭和十七年十月分の賃料を受領したことは認める。本件賃貸借契約の解除に関する特約の趣旨は、控訴人が賃料を二ケ月分以上延滞したときは、被控訴人は、賃料支拂の催告を要せずして賃貸借契約を解除し得る権利を取得することを意味するものである。然るに、控訴人は、本件賃貸借後一ケ年を出でずして既に六ケ月分の賃料を延滞し、その後結局二十九ケ月分を延滞した。右解除に関する特約は、被控訴人が控訴人において延滞した二ケ月分以上の賃料を受領したとしても、消滅してしまうような理由はなく、延滞した賃料を受領することは、只右特約によつて発生した解除権を行使しなかつた迄のことに過ぎない。なお、控訴人は本件賃貸借の成立前大正十年中も本件土地を被控訴人から賃借していたのであるが、当時二十ケ月分の賃料を延滞した爲め、被控訴人から賃貸借契約を解除せられ建物收去土地明渡の判決を受けたが、漸くその執行を免れ本件賃貸借により借地することを得たのに拘らず又々前記のように、二十九ケ月分の賃料を延滞ししかも家屋が焼失するや三年以上も行方不明のまま音信もなく昭和二十三年六月突如として現われ借地権の主張をするに至つたもので、控訴人は全く義務履行の観念もなく信義誠実にも反するものであるから、被控訴人としては、到底控訴人とは將來借地関係を継続することはできないと述べた外は孰れも原判決の事実摘示と同一であるから、茲にこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人が、被控訴人から昭和五年十二月一日被控訴人の所有に属する請求の趣旨表示の本件宅地百七十四坪を、賃料一ケ月金二十七円八十四銭、毎月二十八日拂、堅固でない建物の所有を目的とし、期間を同日から二十ケ年と定めて賃借したこと、該賃貸借には、控訴人が賃料二ケ月分以上を延滞したときは、被控訴人において解除の前提たる催告をなすことを要せず直ちに賃貸借契約を解除し得る特約のあつたこと、控訴人が該宅地上に木造瓦葺の建物三棟を所有していたが昭和二十年四月十三日の空襲により該建物が全部罹災燒失したこと及び控訴人が昭和二十年三月十七日に昭和十七年十月分の賃料を支拂つたのを最後とし同年十一月分以後の賃料を支拂わなかつたこと(但し賃料供託の問題は別論とする)は孰れも当事者の間に爭のないところである。

而して原審証人遠山[金英]太郎、朝蔭繁夫の各証言を綜合すれば、昭和二十三年六月中被控訴人の檀徒総代で且つその代理人である右遠山は控訴人の代理人である右朝蔭に対し前記特約に基き賃料二ケ月分以上延滞したことを理由として本件賃貸借契約を解除する意思表示をしたことが推知し得られるから、これにより該賃貸借契約は解除せられ終了したものと云わなければならない。

控訴人は、(一)右特約は、僅かに二ケ月分の賃料の延滞を以て重要な財産権である借地権を消滅させることを目的とするものであるから、公序良俗に反し無効であると主張する。しかし、成立に爭のない甲第一号証、乙第一号証、第二号証の一乃至三、第三号証、原審証人遠山[金英]太郎、田中八治郎の各証言を綜合すると、本件賃貸借の成立以前大正十年中控訴人は被控訴人から本件土地を賃借し該地上に木造家屋三棟を所有していたのであるが、控訴人は賃料の支拂を怠つたため、被控訴人はこれを理由として昭和四年十二月中右賃貸借契約を解除した上、東京地方裁判所に右建物收去並びに土地明渡請求の訴訟を提起し、(同裁判所昭和五年(ワ)第九一〇号建物收去並びに宅地明渡等請求事件)、昭和五年十一月十四日該請求は認容せられ控訴人は被控訴人に対し右建物を收去した上該土地を明渡すべきことを命ぜられ、該判決が確定したこと、よつて被控訴人は、右確定判決に基き建物收去の手続に及ぼうとしたところ、控訴人は、被控訴人寺の檀徒総代遠山[金英]太郎に対し、將來は賃料を滞納するようなことはしないから、再び賃貸せられたき旨を懇請したので、遠山は右訴訟の代理人であつた田中弁護士と相談の上該土地を控訴人に賃貸することとなり、本件賃貸借が成立するに至つたもので、このような経過をとつた爲め、若し今後控訴人において賃料を二ケ月分以上延滞したときは、被控訴人は、期間を定めた催告をすることなく直ちに右賃貸借契約を解除し得る特約を附したものであることが明白である。從つて本件賃貸借の成立するに至つた右のような特殊の事情の下においては、解除に関する右のような特約を附することは、賃貸人たる被控訴人にとつてはその権利を保全する上に相当な措置であつたと云わねばならないし、又賃借人としても洵に止むを得ないところであつて、これを以て賃借人の賃料債務の不履行に対する制裁として酷に失し公序良俗に反するものとして無効のものと云い得ないことは勿論である。

次に控訴人は、(二)從來二ケ月以上の賃料の延滞があつた場合に被控訴人は、何等の意思表示をもなすことなく、控訴人の提供する延滞賃料を受取つているから、右特約を排除する意思表示をしたものであると主張している。而して控訴人の云うように賃料二ケ月分以上を延滞した場合に、被控訴人が控訴人から延滞賃料を受取つていたことは成立に爭のない甲第三号証の一乃至十二、乙第四号証によつて明白であるが、この事実は、賃料二ケ月分の延滞により右特約に基いて発生した解除権の行使を被控訴人において差し控えていたと云うに止まり、控訴人の云うように右の事実のみによつては直ちに前記特約を排除する意思表示がなされたものとみるのは相当ではない。

次に控訴人は、(三)本件延滞賃料金千五百円五十七銭(昭和十七年十一月一日から昭和二十年七月十一日まで及び昭和二十一年九月十五日から昭和二十三年六月三十日までの賃料)を被控訴人に対し現実に提供したが受領を拒絶せられたので昭和二十三年六月十一日東京法務局に供託した旨を主張し、その供託したことは成立に爭のない甲第四号証により明であるが、供託した金額について、被控訴人に対し右解除の意思表示のあつた以前に、弁済のため現実に提供したことは、これを認めるに十分な証拠がないから、右の供託によつて不履行の責任を免れることはできない。

なお、控訴人は、(四)罹災都市借地借家臨時処理法第十二條の規定に基いて、被控訴人は前記解除に関する特約によつては本件賃借権を消滅させることはできないと主張するが、同條は罹災建物又は疎開建物の敷地の利用を図るため当該土地の借地権について、権利者にこれを存続させる意思の認められない場合に、これを整理する方法として、土地所有者に催告権を認め、これにより借地権を消滅させる規定であるから、本件におけるように、賃借人の賃料債務の不履行を理由として賃貸借契約を解除する特約の効力を排除するような趣旨を含む規定でないことは勿論である。從つて控訴人の右の主張は到底採用に値しない。

右に説明したように、控訴人の右各主張は孰れも正当ではなく、本件賃貸借は、前記の通り昭和二十三年六月中解除により終了したものであるから、右賃貸借が存続するものとして、該賃借権の存在確認を求める控訴人の本訴請求は排斥を免れない。從つて右と同趣旨に出た原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担については民事訴訟法第八十九條、第九十五條の各規定を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 玉井忠一郎 斎藤直一 薄根正男)

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